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フィクション
「ねぇママ。女の人の愛嬌って、そんなに大切なのかなぁ?」


私は、語りかけるでもなくそう呟いた。
カウンター越しにママは言った。


「私は、それが商売みたいなモンだからねぇ。」


彼女は、カウンターに並んだ瓶の一つを手に取りながらこう言った。
私の右手にあるグラスには、美しい琥珀色が漂っている。私は、その向こうに見える黒髪の女性を眺めていた。
いったいママは何歳なんだろう。三十代半ばだろうか。童顔な彼女には、それでも苦労の影が漂っていた。

「でも、暗い顔で入ってきたお客さんが私の顔を見て笑顔になってくれると嬉しいもんよ。」


ママは、いつもの朗らかで屈託のない笑顔で私を包んだ。その笑顔は、私の固くなった心をも解きほぐす。

愛嬌ねぇ・・・。

薄暗い小さな店内には、玉が転がるようなピアノの高音と、後ろのテーブルに座ったサラリーマンたちの取り留めのない会話だけが響いている。

「これ、余りだけど、よかったら食べて。」

そう言ってママはビニールに包まれたままのチョコレートを皿に二、三個入れてくれた。
私は嬉しくなり、礼を言うとさっそく包みを開けそれを口に入れた。

甘い…。ブランデーの強いアルコールが、口の中でチョコレートの甘さとみごとに調和する。そして、ここ数日の私のイライラをゆっくりと溶かしていった。アルコールのおかげで肩の力は抜け、私の心は緩くなっていった。

ママは、そんな私をみて微笑んだ。
いつものその笑顔は、私の心を更に広げていく。


「何のむ?」

ママの問いかけに少し迷った私は、カウンターに並んでいるボトルの一つを指して答えた。

「あれ呑んでみたい。」

赤いリキュールが入ったそのボトルは、格別な存在感をたたえていた。
ママはそのボトルを手に取り、丁寧に、丁寧に、一杯のカクテルを作ってくれた。グラスに注がれた赤いリキュールは、他の色と混じっても、その鮮やかさを失うことはなかった。そして、そのグラスの淵にはさらに鮮やかなオレンジの花が添えられ、私の目の前に出された。

私はしばらく、その美しさを楽しむことにした。

アルコールのおかげもあり、ほどよく気持ちがよくなってグラスを彩るパッションカラーに見とれていた。すると、ふっと数日前のある出来事が頭をよぎった。そして脳裏に浮かんできたのは、もう見飽きたあの人の笑顔だった。

一週間前のケンカの原因なんて、もうろくに覚えちゃいない。


私はようやくグラスに口をつけた。
酸味が効いていた。思いがけない味だった。


あの時、なぜケンカをしたのか。理由なんてどうでもよかった。私は、ただケンカをしたという事実にだけ縛られ一週間を過ごした。


カクテルの意外なすっぱさと、その鮮やさを失わないパッションカラーは私を勇気づけた。





この夜が明け明日になったなら、謝ろう。
きっとあの時、私はいらないストレスを背負っていただけなのだから…。

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【2006/12/20 23:37】 | ショートストーリー | トラックバック(0) | コメント(2) | page top↑
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コメント
貴女、文章うますぎるね……
【2006/12/21 23:17】 URL | キサ #xfEiCw62[ 編集] | page top↑
お酒が飲みたくなる文章を書きたかっただけです(笑)
【2006/12/21 23:27】 URL | 亜紀子 #-[ 編集] | page top↑
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